第5話『父、進化する』(パパ視点again)

 

  1. 痛みが消えた日

鍼灸を受けて数日後——

いつもなら、目を覚ましてからも「よいしょ……」と慎重に起き上がるのが日課だった。
無理に動こうとすれば、腰にズキッと響く痛み
一度で起き上がれずに、少しずつ身体を動かしながら時間をかけて起きるのが当たり前だった。
——なのに、今日はスッと起きられた。

「お、今日は起き上がるのがスムーズだ……!」

(マジか……こんなに違うのか……

しかも、歩くたびに感じていた腰の重だるさもほとんどない。

(なんでもっと早く鍼灸行かなかったんだ……

 

  1. 家族の反応

リビングに行くと、妻と息子が朝ごはんを食べていた。

「おはよう、パパ!」
「パパ、おはよ〜!」

「おう、おはよ。」

椅子に座るとき、無意識にゆっくり動こうとしたが、驚くほどスムーズだった。

それを見た妻が目を細める。

「……動きが軽いね?」

「まぁな。正直、こんなに楽になるとは思わなかった。」

「ふふ、それは良かったね。」

すると、息子が箸を置いて、キラキラした目でこっちを見た。

「じゃあ、パパ、もう肩車できる!?」

「いや、まだリハビリ中だからな……!」

即答したが、息子はむくれる。

「えー?でも、チクってしてもらったら楽になるんでしょ?」

(チクって……鍼のことか……)

「確かに楽にはなるけど、すぐ無理したらまた痛くなるからな。」

「えー……つまんなーい。」

そんな息子を見て、妻がクスッと笑う。

「パパはね、ちゃんとケアしながら強くなるんだよ。」

「ふーん……じゃあ、チクってしないとダメ?」

「違う、チクってする前に、普段からストレッチとかをしておくのが大事なんだよ。」

「ふーん……?」

(よし、今のうちに教育しておこう……

 

  1. はじめてのセルフケア

「パパも、ストレッチ習慣つけたら?」

朝食の後、妻がスマホを見せてきた。

「ほら、腰痛予防のストレッチ動画鍼灸の先生も言ってたでしょ?『普段のケアが大事』って。」

「……まぁ、確かに。」

「どうせまた肩車するんだから、事前に準備しとかないと。」

「……俺、肩車確定なの?」

「うちの子の性格を考えて?」

「……」

妻のドヤ顔が腹立たしい。

「まぁいい。せっかくだし、やってみるか。」

———そして、ストレッチ開始。

腰を丸めるストレッチ
お尻の筋肉を伸ばすストレッチ
太ももの裏を伸ばすストレッチ

……やってみると、意外と気持ちいい。

「お、これ、地味に効くな……」

「でしょ?毎日続けたら、もっと楽になるよ。」

「……よし、習慣にするか。」

腰痛持ちになった自覚はある。
だからこそ、再発させたくない。

(これからは、ちゃんと身体のメンテナンスもしないとな……)

 

  1. そして、肩車のリベンジ

それから2週間後——

週に1回の鍼灸とストレッチを毎日続け、腰の調子は万全だった。

天気のいい休日、公園で息子がまた言ってきた。

「パパ、肩車して!」

「……よし、乗れ!」

久しぶりに腰を落とし、息子を持ち上げる。

(よし……大丈夫だ!)

「わーい!高い!」

風が気持ちいい。
息子のはしゃぐ声が、いつもよりクリアに聞こえた。

「パパ、今日は大丈夫?」

「おう!でも、毎日はできないからな!」

「えー!なんでー!?」

「ちゃんとケアしないと、また壊れるからな!」

「そっか……じゃあ、パパ、ちゃんとチクってしに行く?」

「チクっとするのは最終手段だ!!」

——笑いながら、公園の青空を見上げた。

 

 エピローグ

それから、定期的にストレッチを続けることにした。
月に一回は、鍼灸院でメンテナンスも受ける。

「無理をする前に、ケアをする」

今までは「大丈夫」が口癖だったが、これからは違う。

「まだ大丈夫」じゃなくて、「今のうちにケアしよう」

そのおかげで、今では肩車をしても腰の痛みを感じることはない。
メンテナンスさえ続ければ、大好きな息子と、いつまでも全力で遊べるはずだ。
——そう思いながら、今日もストレッチをするのだった。

【完】

第4話『ついに動いた「大丈夫な人」』(鍼灸師視点)

 

1.いつもの予約リストに、見慣れない名前

その日、予約リストを確認していた私は、見慣れない名字を見つけた。

 

(あれ……?この名字、どこかで聞いたような……)

 

予約表を開いてみると、新規患者の欄に「腰の痛み」と記載されていた。

さらに、「整形外科・整骨院を受診済み。現在も違和感が残るため来院希望」と補足がある。

 

その瞬間、ピンときた。

 

(あぁ……ついにあのご主人の腰が悲鳴を上げたのね…)

 

2.3年越しの伏線回収

思い返せば、彼の妻はもう3年近くここに通っている。

 

産後の体調不良がなかなか改善せず、身体を整えるために鍼灸を始めたのがきっかけだった。

最初の頃は月に2回ほど来院されていたが、今では月1回のメンテナンスで体調を維持できるようになっている。

 

施術の合間に、時々夫の話もしていた。

 

「うちの夫、全然ケアしないんですよ。どんなに疲れてても『大丈夫、大丈夫』って言うタイプで。」

「前に『鍼もいいよ』って勧めたこともあるんですけど、『いや、まだいい』って流されちゃって……。」

「でも最近、腰が重く感じるみたいでちょっと困ってるみたいだから、もしかしたら鍼に興味持つかなって思ってます。」

 

(あーー。そういう人ほど、いざ痛めると大変なことになるんだよね。)

 

何度か「そろそろ旦那さんもケアしたほうがいいですよ」とやんわりおすすめしてはいたけれど、奥さんはいつも苦笑いしながら「言っても聞かないんですよ〜。自分で決めないと動けないタイプなんです」と言っていた。

 

——そんな彼が、とうとう予約を入れてきた。

 

(これはもしかして、相当痛めたんじゃなかろうか…?)

 

3.ついに来院した「大丈夫」な人

予約時間になり、ついに「大丈夫な旦那さん」がやってきた。

 

「初めまして、今日はよろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。では、腰の状態を詳しく教えていただけますか?」

 

彼は少しバツが悪そうにしながら話し始めた。

 

「えっと、最初はただの疲れかなって思ってたんです。でも、痛みが引かなくて……整形外科では『骨には異常なし』って言われて、整骨院にも行ったんです。」

 

「あぁ、○○整骨院さんですね。私も何度か患者さんを紹介していただいたことがあります。」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「はい。あそこの先生、腰の治療が得意で、スポーツ系の患者さんも多いですよね。」

 

「そうなんですよ。で、その先生に『鍼灸を試してみるのもいいかも』って勧められて……。」

 

「なるほど。それで来てくださったんですね。」

 

「……まぁ、実は妻にも前から鍼灸いいよって言われてたんですけど……。」

 

私は思わず微笑んだ。

(やっと来てくれたんだし、少しでも鍼灸が気に入ってくれるといいんだけど…)

 

4.初めての鍼と「響き」

「では、まず身体の状態を確認していきましょうか。」

彼は少し不安そうにしながら、ゆっくり立ち上がった。

 

「まず、前かがみになってみてください。」

「はい……っつ……!」

上半身を倒すにつれて、彼の顔がわずかに歪む。

 

「痛みはどこに響きますか?」

「腰の奥ですね。あと、お尻のほうまでじわーっと……」

 

「なるほど。他にも、違和感のある動きはありますか?」

「腰を反らせるのもちょっとキツいですね。あと、長時間座ってると重だるくなります。」

 

私は頷きながらメモを取る。

「わかりました。では、これを踏まえて施術していきますね。」

 

うつ伏せになってもらい、鍼着を少しずつずらしていく。

「お尻の緊張と下半身の張りが強いので、お尻の方まではだけさせますね。」

「わ、分かりました…」

 

少し戸惑い気味の声が聞こえるが、特に気にせず準備を進める。

アルコール消毒を終え、いよいよ施術開始。

 

「では、これから鍼をしていきますね。痛かったり、違和感があったら教えてください。」

「……あ、はい……。」

 

プスッ。

 

「……あれ?これ、もう刺さってるんですか?」

「はい、もう入ってますよ。」

「え、本当に?……思ったより全然痛くない…」

 

「そうですか。では、もう少し深い層の筋肉へ刺していきます。」

 

「……んっ!?なんか……ズーンとくる……!」

 

「それは“響き”ですね。」

 

「……うわ、変な感じする……!」

 

「もし強すぎるようなら調整しますが、大丈夫ですか?」

「いや、少しびっくりしたけど大丈夫そうです。」

 

最初は驚いた表情を浮かべていたが、やがて「……これ、効く気がするな」とぼそっと呟いていた。

 

5.次回はパルス?

「今回は初めてなので、少し軽めにしておきますね。」

「え、鍼にも強弱があるんですか?」

「はい、刺激の量を調整できます。例えば、鍼に微弱な電気を流す『パルス治療』という方法もあるんですよ。」

 

「え!?電気流すんですか?(柔整師の先生が話していたやつか?)」

「はい、パルスを使うと、筋肉をリズミカルに動かしてより深い緩みを出せます。でも、初回から強い刺激を入れすぎると身体がびっくりして怠さが強く出ることがあるので、今日はまず『置く鍼』で様子を見ますね。」

「そんなこともできるのか……!」

 

彼は「へぇ……」と感心しながら、静かに目を閉じた。

 

6.そして、お灸の力

鍼をしている間に、お灸の準備も進める。

 

「今日はお灸も一緒に使いますね。」

「え、お灸ってあの燃やすやつですか?」

「そうです。でも、直に皮膚の上に置くわけではなくて、『台座灸』という種類を使います。」

「へぇ……それなら安心かも。」

 

私はお灸に火をつけ、彼の腰とお尻周りに置いていく。

じんわりと温かさが広がる。

 

「うわ……なんか、じんわり温かさが入ってくる感じがする…これ、すごい落ち着く……」

 

7.ついに回復へ

施術後、ゆっくりと立ち上がった彼は、軽く腰を回してみる。

 

「あれ……?なんか、動きやすい……」

「血流がよくなると、筋肉の奥の緊張が少しずつ緩んでくるんですよ。でも、当分無理はしないようにしてくださいね。楽になると途端に動き回る方が多いので!」

「はい……気をつけます……。」

 

ふと、彼がポツリとつぶやく。

「……これなら、また肩車できるかな……?」

 

私は微笑んで答えた。

「焦らず、もう少し回復してからにしましょうね。」

 

——彼は少し照れくさそうに頷いた。

第3話『うちの夫が限界オタクな件』(ママ視点)

 

1.夫の異変、秒でバレる

 

玄関のドアが開く音がして、「おかえりー」と声をかけた瞬間——

 

(ん?なんか歩き方が変?)

ちょっとぎこちない動きに、すぐにピンときた。

 

「……パパ、何その歩き方?」

「ん?普通だけど?」

「その顔で言う?」

 

子供が「ねえママ!」と元気に近寄ってきた。

(ああ、やっぱり。)

「今日、パパがね——」

「パパ、腰痛そうだったよ。」

 

……ん?いつもの言いつけとは、ちょっと違う。

 

「パパ、大丈夫なの?」

心配してる、ってほどじゃない。

でも、子供なりに「なんかいつもと違う」と思ったみたい。

 

私の顔を見て何かを察したのか、息子が純粋な眼差しを夫に向けて

「パパはちゃんと診てもらったほうがいいって。」と言葉にした。

 

その言葉にさすがの夫も撃沈していた。

まぁ、息子から言われたら返す強がりもないわよね。

 

2.夫、病院に行く

 

「で、何があったの?」

「いや、ちょっと肩車しすぎたかも……」

 

夫は、ゆっくりとソファに近づき、慎重に腰を落とした。

痛みをかばいながらそっとソファに座る姿を見て、あ、これは結構ヤバいやつだなと確信した。

 

「まぁ、さすがにこれは病院行こうかなと思ってる。」

「お!珍しく素直!」

つい驚いてしまった。

いつもなら「いや、寝れば治るだろ」とか言い出すのに、今回は自分から病院に行くと言っている。

 

夫は腕を組んで、少し考え込むように首を傾げた。

「……なんか今回は、ちょっと違う感じがするんだよな。」

「違う感じ?」

「うん、いつもなら、しばらくしたら楽になるのに……今回は、ずっと重だるいっていうか。」

 

夫がここまで言うのは珍しい。

やっぱり、よほど痛いのだろう。

「そっか。でも、まずは病院でレントゲンでも撮ってもらったら?」

「うん……そうする。」

 

「で、どこ行くの?」

「まず○○整形外科行って、骨に異常がないか診てもらう。何日か様子見ても変わらなかったら整骨院にも行ってみる。」

 

整骨院?どこ行くの?」

「○○整骨院。会社の先輩に、腰痛持ちならそこがいいって聞いた。」

「あそこの先生評判いいもんね」

「うん。結構スポーツ系の人も通ってるみたいで、腰の治療に詳しいらしい。」

 

——夫は整骨院で施術を受け、コルセットを勧められた。

でも、やっぱり違和感が残るらしい。

 

3.夫、ついに決意する

帰宅した夫はソファに座り、腕を組みながらぼそっと言った。

「……鍼灸ってさ、どこに行けばいいんだろうな。先生に『鍼灸もいいかも』って言われて……。」

 

「ふーん……」(やっとここまで来たか。)

「じゃあ、私が通ってるところに行ってみる?」

「え、ママ、鍼灸行ってたの?」

「うん、もう3年くらいね。」

 

夫は目を丸くした。

「3年!?そんなに!?」

「そう。最初は体調悪くてしんどかったけど、今は月1回のメンテナンスだけで済んでるの。」

「そんなに続けてたのか…」

 

「先生に勧めてもらったのなら、ちょうどいいタイミングかもね。これを機会に、自分の身体のメンテナンスについて考えてみるのもいいんじゃない?」

 

私はスマホを開いて、いつも通ってる鍼灸院のオンライン予約ページへ。

「さて、予約入れるね。」

「ちょ、ちょっと待って、どう説明するの?」

「んー、いつも診てもらってる先生だから、ちゃんと分かってくれると思うけど……」

 

私は入力しながら、夫にも説明する。

「とりあえず、最近腰を痛めて、整形外科を受診後、整骨院に数回通ったけど、まだ違和感があるってことと……」

 

「あと、鍼灸初めてだからビビってるってことも?」

「それは自分で伝えて(笑)」

 

入力が終わり、送信。

「よし、予約取れたよ!」

夫は隣でスマホを覗き込んで、苦笑いしている。

 

「なんか……もう、逃げられないなこれ……」

「ふふ、私はいいと思うけど。知らない世界を体験してみるのもいいんじゃない?」

こうして、夫の【初・鍼灸体験】が決まった。

第2話『パパ、壊れる』(子供視点)

 

1.いつもの公園、いつものお願い

「パパ、肩車して!」

今日も元気にお願いした。

 

パパはいつも「よし、乗れ!」って言ってくれるし、強いから大丈夫。

だから、公園に行くと「パパと公園=肩車」になるのが当たり前だった。

 

でも、ママにはあんまり無理なお願いはしないようにしていた。

なんとなく、わかっていた。

ママはたまに「ちょっと疲れたから、座らせてね」って言うし、なんだか優しくしてあげたほうがいい気がしていた。

 

でも、パパは違う。

パパは「大丈夫!」って何でもできる人だから、いっぱい遊んでって言っても平気。

 

——そう思っていた。あの日までは。

 

2.えっ、パパって壊れるの?

「パパ!もっと高くして!」

「おう、任せろ!」

 

その瞬間、パパの顔がゆがんだ。

---ビキィィィィ!!!

 

「え!?パパ!?」

足元がガクッと崩れそうになるパパ。

でも、落ちると危ないって思ったのか、すごく頑張ってくれた。

 

全身に力を入れて、ふんばって、ぎゅっと肩にしがみつく。

「パパ?どうしたの?」

「……ちょっとだけ、休憩な……」

いつもと違う顔で、なんだか変な笑顔だった。

 

(え……パパ、壊れたの……?)

 

3.なんか、いつもと違う

「ねえパパ、大丈夫?」

「……うん、大丈夫。」

でも、その声は、なんだかちょっと苦しそう。

 

「ねえ、ママに言おうか?」言ったら、パパはちょっと慌てた顔をして、

「言わなくていい!」って、いつもよりちょっと強めに言った。

 

「ふーん……」(……なんで?なんか、ヘンじゃない?)

 

4.じゃあ、パパも無理しない方がいいの?

「パパ、手つなぐ?」

 

いつもなら、「いいよ!」ってすぐに手をつないでくれるけど、

今日はほんのちょっとだけ間があった。

 

「……つなごうか。」

なんだか、いつもより頼りない声だった。

 

いつもなら、パパと一緒に帰るのは楽しくてあっという間だけど、

今日の帰り道は、なんだかいつもよりゆっくり感じた。

 

5.言っていいのかな?

 

家に帰ると、ママが「おかえりー」と迎えてくれた。

でも、なんだか、パパのことをじーっと見てる気がする。

 

「ん?普通だけど?」って、パパは言うけど、ママが「その顔で言う?」って言った。

(あー……やっぱりママにはバレるんだ。)

パパが無理してるの、ママにはすぐ分かるんだ。

 

じゃあ、言ってもいいのかな?

でも、パパは「言わなくていい」って言った。

 

でも、ママはしんどいとき、ちゃんと休む。

パパもしんどいなら、ちゃんと休まなきゃダメなんじゃないの?

 

「パパはちゃんと診てもらったほうがいいって。」僕が発した一言でちょっと静かになった。

 

パパが「えっ?」ってこっちを見る。

ママも、じっとパパを見てる。

 

(……あれ?なんか、すごいこと言っちゃったのかな?)

 

でも、やっぱり言いたかった。

 

「ママもしんどいとき、ちゃんとお医者さんに行くでしょ?」

「パパもしんどいなら、ちゃんと診てもらわないとダメだよ。」

 

そう言ったら、ママがゆっくり笑った。

「そうね。パパ、どうする?」

パパは少し考えて——

「……うん。」って、小さくうなずいた。

 

その瞬間、なんだかちょっとホッとした。

(パパ、ちゃんと治るかな……?)

 

第1話『肩車の代償』

まだ大丈夫、は大丈夫じゃない話

 

1.ルーティンになった肩車

「パパ、肩車して!」

今日もまた、息子が無邪気に飛びついてくる。

 

最近のお気に入りらしく、公園に来るたび「パパと公園に行く=肩車」になっていた。

 

三十五歳、会社員。大学時代はラグビー部で、体力には自信がある。

今もそれなりに鍛えている。

 

「よし、乗れ!」

腰を落とし、ぐっと持ち上げる。

 

最初は何の問題もなかった。

でも、肩車をするたび、じわじわと腰の重さが増していた。

 

「まだ大丈夫」と思い込んでいた。……今日までは。

 

2.突然の悲劇

「パパ!もっと高くして!」

「おう、任せろ!」

 

その瞬間——

 

---ビキィィィィ!!!

腰に電流が走る。

 

足元が崩れそうになる。

が、肩には子供が乗っている。

 

(耐えろ……!落としたらマズい……!)

 

全身に力を入れる。何とか耐えた。

でも、呼吸は乱れ、冷や汗が流れる。

 

「パパ?どうしたの?」

「……ちょっとだけ、休憩な……」

膝をつき、誤魔化すように笑う。

 

3.何とか自宅へ帰る

「パパ、大丈夫?」

「……うん、大丈夫。」

 

自分に言い聞かせるように答え、そっと立ち上がる。

(ヤバい、ちょっと動くだけでも痛い……)

 

子供がじっとこちらを見ている。

「ねえ、ママに言おうか?」

「言わなくていい!」思わず即答する。

 

「ふーん……」

 

子供は納得したような、していないような顔をしながら、小さな手を差し出した。

「パパ、手つなぐ?」

少し迷い、「……つなごうか。」となんだか頼りない声で返した。

 

いつもなら十分の帰り道が、今日はやたらと長く感じた。

 

4.すぐバレる

「おかえりー……って、パパ、何その歩き方?」

 

玄関に入った瞬間、妻に一瞬でバレた。

 

「ん?普通だけど?」

「その顔で言う?」

「……」

 

玄関にしゃがむのも、靴を脱ぐのも一苦労だった。

 

すると、子供がニコニコしながら口を開く。

「ねえママ!今日パパがね——」

(ヤバい。)

 

「パパ、腰痛そうだったよ!」

(……終わった。)

 

妻がジトッとこちらを見る。

 

「パパはちゃんと診てもらったほうがいいって。」

——無邪気な笑顔の子供からの一言が胸に刺さった。

完全に詰んだ……。

 

 

5.整形外科へ

「骨には異常なしですね。」

 

整形外科の先生は、レントゲンを見ながら淡々と言った。

 

「筋肉の緊張が強いので、しばらく安静にしてください。湿布と痛み止めを出しておきますね。」

(……ほら、やっぱりそんなに大したことないじゃん!)

と言いたかったが、実際は立ち上がるたびにズキズキするし、靴下を履くのも一苦労。

 

「……湿布だけで本当に治るのか?」

なんとなく不安を抱えながら病院を出た。

 

6.やっぱり整骨院に行ってみる

湿布を貼ってみたものの、3日経っても思ったほど良くならない。

腰の違和感は続き、立ち上がるたびに「ズキッ」と響く。

 

「……さすがにこのままじゃヤバいな。」

 

そう思いながらスマホで検索し、決めていた整骨院に予約を入れた。

 

——そして、予約当日。

 

「よろしくお願いします。」

「はい、よろしくお願いします。では、腰の状態を見ていきますね。」

 

担当の先生は柔道整復師で、落ち着いた雰囲気の30代後半くらいの男性だった。

触診しながら、うんうんと頷いている。

 

「腰、ガチガチですね……かなり負担がかかっていますよ。」

「そ、そうですか……」

 

施術を受けると、確かに少し楽になった。でも、まだ芯の部分に違和感が残る。

 

「コルセットを使うと、動くときの負担が減るので、しばらくつけてみてください。」

「……コルセットですか。」

「寝るときは必ず外すようにしてくださいね」

 

柔整師の先生はカルテを確認しながら、ふと口を開いた。

「もし違和感が続くようなら、鍼灸を試すのも手ですよ。」

鍼灸?」

「はい。実は僕も、昔腰を痛めたことがあって……そのとき、鍼灸に助けられたんです。」

「先生もですか?」

「ええ。学生時代、スポーツをやっていて腰を痛めましてね。最初は整形外科とリハビリで様子を見ていたんですが、なかなかスッキリせず……そこで試しに鍼灸を受けたら、一気に楽になったんです。」

 

「そんなに効くもんなんですか?」

「個人差はありますが、深い筋肉にアプローチできるのが鍼灸の強みです。特に、パルス治療を入れると、深部の筋肉までしっかり緩められるので。」

「パルス治療?」

「鍼に微弱な電気を流して、筋肉をほぐす方法ですね。」

(電気……?なんか怖そうだな……)

「まぁ、まずは様子を見て、それでも違和感があれば考えてみてください。」

「そ、そうですね……(できれば避けたい……)」

 

——こうして、俺の「まだ大丈夫」は、ゆっくりと崩れ始めた。

 

7.初めての鍼灸

妻が予約してくれた鍼灸院を訪れる日がやってきた。

「では、力を抜いてくださいね。」

担当は女性の鍼灸師だった。整体のときより肌を出すことになり、少し緊張する。

 

「特にお尻周りの筋肉がかなり硬くなっていますね。ここにも鍼をしますね。」

(えっ、お尻にも刺すの!?)

思わずビクッとなるが、抵抗する余裕はない。

 

プスッ。

 

(……あれ?)

「え、もう刺さっているんですか?」

「はい、何本か入っていますよ。」

 

想像していたような激痛はなく、むしろ気持ちいいレベルの刺激に唖然とする。鍼が深いところに入ってくる刺激に驚いたものの想像していたよ激痛はなかった。

だんだんと筋肉が緩む感覚が新鮮で、この気持ちよさはクセになりそうだなと独りごちた。

 

8.ついに回復

 

鍼灸を受けた後、受ける前に比べて驚くほど体が軽かった。

 

「すごい……めっちゃ動きやすい……!」

「でも、当分無理はしないようにしてくださいね。楽になると途端に動き回る方が多いので!」

「はい……気をつけます……。」

 

数回の施術を受けると、腰の痛みはすっかり落ち着いていた。

(……もっと早く来ればよかった。)

 

9.再び公園へ

鍼灸を受けて数日後——

「パパ、もう肩車できる?」

「いや、まだリハビリ中だからな……!」

「えー?またチクってしてもらえば?すると楽になるんでしょ?」

「……ハ、ハハハ」

 

(次は痛くなる前に、ちゃんとケアしよう……)

 

息子が公園で遊ぶ姿を見守りながら、静かに決意した。